取材日:2024年10月10日
群馬県は、県庁舎の会議室管理のDXに取り組み、物理鍵での管理からスマートロックを活用した運用へ移行しました。実証実験後に実施された職員向けアンケートでは98.0%が「便利になった」と回答し、63.9%は会議のたびに「10〜20分」の時間短縮の効果を確認できたそうです。
今回は、ビットキーのスマートロックと「workhub」の導入を推進された、群馬県の知事戦略部デジタルトランスフォーメーション課(以下、DX課)の木暮様、総務部 財産有効活用課財産管理係の中山様、総務部 財産有効活用課 県庁舎リノベーション推進室(以下、県庁舎リノベーション推進室)の奥田様に、本取り組みの詳細を伺いました。
部署を超えた連携が取り組みを推進する鍵に

――まず、皆様の所属する各部署の役割についてお聞かせください。
中山さん:私が所属する財産有効活用課は、県庁舎や県有施設などの管理運営を担当しています。会議室の管理も所管しており、今回の取り組みではスマートロックの導入・運用方法について検討し、現在は実際に運用を担当しています。
木暮さん:DX課は2020年度に設立された組織です。庁内業務のDX支援や職員の働き方改革のほか、市町村のDX支援も担当しています。各部署が抱える課題を、デジタル技術を活用して解決するための支援を行っており、本プロジェクトもその一環として関わりました。
奥田さん:私は県庁舎リノベーション推進室に所属しています。2023年度に新設された組織で、県庁舎の効率的かつ有効な活用方法を企画・推進しています。以前はDX課に在籍しており、今回の取り組みでは木暮さんと連携して試験運用での実施方法などを企画しました。


――従来の会議室管理における課題を教えてください。
中山さん:群馬県の県庁舎には20以上の会議室があり、各部屋はセキュリティ確保のため施錠しています。従来、利用者は11階の財産有効活用課の窓口で所属部署名や名前の確認を済ませて鍵を受け取り、利用後は返却する必要がありました。
しかし、庁舎は33階建てで、会議室は各フロアに点在しています。そのため職員にとっては鍵の貸し借りのための移動に時間を取られることや、窓口の担当者が不在のときの対応などが課題となっていました。

――このタイミングで取り組みを推進されたきっかけを教えていただけますか。
奥田さん:このプロジェクトのきっかけは、私が騒ぎ出したことなんです(笑)。「会議室の貸し借り手続き、面倒くさいよね」と。DX課に所属していた頃から課題を感じており、県庁舎リノベーション推進室への異動を機に問題提起をしました。さらに、DX課にはミニマムに取り組みを始められる予算があることも知っていたので、この予算を使えば次年度を待たずに運用の検証ができるのではないかと考えたんです。
――導入プロセスついて、詳しくお聞かせいただけますか。
木暮さん:DX課では各部署の新しい取り組みを支援するための実証実験用の予算を持っています。今回は奥田さんの相談を受けてこの予算を活用し、まずは運用の検証をしてみようということになりました。そのなかで、DX課は候補となる製品の選定を担当しました。
奥田さん:スマートロックの存在は以前から知っていましたので、どの会社の製品が良いのか?を比較するところからのスタートでしたね。
中山さん:実証実験は28階と29階の共用会議室を対象にしました。理由として、この場所は全職員が利用する共用スペースなので、様々な部署からフィードバックが得やすいと考えたんです。
検証の目的は、スマートロックの導入により運用上の課題が生じないかということでした。具体的には、予約の重複によるトラブル発生の有無の確認などです。また、鍵の貸し借りに要する時間を可視化することも目的の一つでした。

セキュリティと拡張性を考慮した製品選定プロセス
――スマートロックの選定において、特に重視されたポイントを教えていただけますか。
木暮さん:費用面はもちろんですが、他にも重視したのが「工事の必要性」と「通信方式」でした。工事については、大掛かりな工事が必要となればコストがかさむため、工事不要で設置できるものを求めていました。
通信方式については、LTE通信可能なスマートロックという点が重要でした。県庁内のネットワークには独自のセキュリティ基準があるため、Wi-Fi通信の場合、ネットワーク環境を別途用意する必要があったんです。
ビットキーさんのスマートロックは、LTE通信に対応しており、庁内ネットワークとは独立して運用できる点が決め手でした。これは非常に大きなポイントでしたね。
また、県庁で会議室予約に利用しているOutlookカレンダーを、将来的にはworkhubとも連携させたいと考えていました。Outlookカレンダーで予約したら、workhubに情報が同期され、予約者はその時間だけスマートロックを解錠する権限がもらえるというイメージです。現時点ではニーズが顕在化していませんが、必要なときに連携できる、その拡張性も考慮しました。

実証実験後「便利になった」が98.0%。効果を実感
――実証実験から本格導入までの流れを教えていただけますか。
中山さん:実証実験では職員に広く協力いただきました。実験後のアンケートでは満足度や、従来の鍵の借用・返却にかかる時間と比較して、どの程度の効率化できたのか確認しました。
――アンケートの結果はいかがでしたか。
中山さん:98.0%が「便利になった」と回答しました。1会議あたりの時間短縮効果も10〜20分と回答した方が63.9%となり、効果を感じましたね。以前は鍵の借用や返却のために財産有効活用課まで足を運ぶ必要があったのですが、その往復の時間が不要になったことが大きいと思います。

<アンケートに寄せられたコメント>
- 鍵を借りる・返すための時間を見積もらずにすむようになったのが一番助かりました。高層階から向かうと、タイミングにもよりますが、かなり時間がかかっていました。
- 後ろの時間に別の予約が入っていても慌てて鍵を返却しに行く必要がなくなり、心理的負担がかなり軽減されました。
- スマートロック化は大変便利になったので感謝しています。一方で、所属配布枚数に制限があるので、将来的には職員証等と結び付けて個人単位で開け閉めできると便利だと思いました。
――管理者側の負担も軽減されたそうですね。
中山さん:はい。財産有効活用課の業務効率化にも効果がありました。以前は1日に約20件の会議室の鍵の受け渡しを行っていましたし、鍵の返却が遅れている場合、返却を催促する手間もかかっていました。それらがなくなったことで、一日あたり最大で2時間ほどの業務を削減できています。
――現在、どのような運用にされていますか。
中山さん:会議室に入室するためのカードは各課に2枚ずつ配布し、発行・管理は財産有効活用課で行っています。当初は会議室利用に対しカード枚数が不足する懸念もあったのですが、実際に運用してみると十分対応できています。各課の人数は15名から40名弱とまばらですが、会議室の数にも限りがありますので、現状のカード枚数で特に大きな問題は発生していません。

奥田さん:管理側の目線からすると、機器の耐久性や電池の持続時間なども重要な検証ポイントでした。スマートロックの盗難や破損、機器の電池持ちや故障、維持管理コストなども念頭に入れて検討を進めました。検証の結果、電池は半年程度持続し、100回程度の使用が可能とのことで、実用に十分耐えうる結果が得られました。
――導入にあたって、印象に残っていることはありますか。
奥田さん:実証実験は年度途中で実施したため、予算面での調整が必要だったことですね。通常、行政の会計年度の都合上、年度をまたぐサービス契約は難しい面があります。その点、ビットキーさんには色々ご調整いただき、助かりました。
中山さん:私は、ビットキーさんの担当者に、カードの登録などの設定方法を丁寧に教えていただいたおかげで、スムーズに導入できたことが印象に残っています。
今後も当たり前を見直し、業務改善へ
――今後についてお考えのことをお聞かせください
木暮さん:DX課としてはデータ活用を進めたいですね。今回の取り組みでどの部署がどの時間帯に会議室を多く利用しているのか、季節による利用傾向の違いなども把握できるようになりました。この分析結果は、今後の会議室運用の最適化にも活用していきたいと考えています。
中山さん:私どもが管理している施設や設備の鍵は他にもあり、例えば公用車が挙げられます。公用車の鍵は従来の会議室の運用と同様に、現在も窓口で受付、鍵を受け渡しています。これも、わざわざ11階に来ることなく手続きできるようにしたいですね。
今後も会議室での取り組み事例を踏まえて、さらなる業務効率化に取り組んでいきたいと思います。
奥田さん:今回のプロジェクトを通じて重要だと感じたのは、「当たり前」を見直す視点です。会議室の鍵管理は、誰もが面倒だと感じていても、長年そのままになっていました。しかし、ちょっとした「面倒くさいこと」に目を向け、改善の可能性を探ることで、大きな変化を生み出すことができました。
私たち職員の業務効率が上がることは、最終的には県民の方々へのサービス向上につながります。今後も職員からの改善提案を積極的に拾い上げ、より良い県庁づくりを進めていきたいと思います。

――最後に
財産有効活用課のオフィスを訪問した際、印象的だったのは、職員の出社状況や着席位置が一目でわかるモニターが設置されていたことです。フリーアドレスでありながら、デジタル化によってスムーズに居場所を把握できるシステムが構築されていました。
今回お話を伺った皆様は、知事直轄にDX課があることが、様々な取り組みを後押ししていると仰っていました。しかし、単に環境が整っているだけでなく、日々の業務における「面倒」や「不便」を積極的に解消しようとする職員の皆さんの姿勢こそ、DX推進の鍵だと感じました。
こうした前向きな姿勢は、自治体はもちろん、企業にとっても大いに参考になるのではないでしょうか。
この度はご取材をお受けいただきありがとうございました。
ビットキーは、今後も群馬県様のDXに協力してまいります。
workhubは、企業、自治体問わず、人が働く様々な場所に導入されています。お気軽にお問い合わせください。